63.王様印のハンバーグ

投稿者 H.OHNO

むかしむかし、とあるところにとても美味しいハンバーグという料理を出す、『王様』という店がありました。
そこには多くのお客様が集い、ハンバーグの味を楽しんでいました。そのハンバーグはシンプルな素材でできていて、コスパも良く、いろんなトッピングやソースで楽しめるのが売りでした。
それは瞬く間に外の国々にも広まっていきました。

『王様』の店主はそれを自由にアレンジしていいよ、と言い、そのハンバーグを使ったいろんなアレンジ料理を民衆は楽しんでいました。
そのうち他にもっとグレートな美味しい料理がたくさん出てきて、人々は王様のハンバーグの事を忘れていきました。
いつしか『王様』の店主もハンバーグを作らなくなりましたが、あの味を忘れられない人たちは、密かに王様のハンバーグを再現したりして、王様印のハンバーグとして細々と楽しんでいました。
そして『王様』の店主はどこで何をしているかわからなくなり、風の噂で『王様』の店主の悪口が聞こえたり、昔のやらかしが聞こえてきましたが、王様印のハンバーグのファンたちは意に介せず、細々とハンバーグの味を楽しんでいました。

時がたち、かつて王様のハンバーグを楽しんでいた子供たちも大人になり、あの味が細々と続いているのを知って少しずつその味を楽しむ人も戻ってきました。
そんなある日、とつぜん『王様』の店主が高らかにお店復活を宣言したのです。
そして、「新しいハンバーグを作る!!」と宣言しました。

かつての王様印のハンバーグのファンたち、最近王様印のハンバーグを知った人たちが、国一番の学校の講堂に集められました。
『王様』の店主は今までの苦労とこれからの思いを語りました。
自分は新しいハンバーグを作りたかったのだが、志半ばにしてそれは作れなかったのだと…。
料理のできない者は見守るしかありませんでしたが、料理のできる者は再び包丁をとぎ始め、若いミシュラン3つ星のシェフや伝説の料理人、はたまた海外の料理人まで集まり、新しいハンバーグを完成させるべく英知を結集しました。

もちろん彼らは『王様』の店主を尊敬しているので、この新しいハンバーグ作りに参加できること、それ自体が喜びだったので無報酬で寝る間も惜しんで力を貸しました。
その間も『王様』の店主は夢を語り続け、牛肉味の豚肉でできたハンバーグを作りたいだの、車にハンバーグを載せて走らせたいだの、鶏肉と牛肉を混ぜて豚肉にしたいだの、もはやハンバーグかどうかもわからない、わけのわからない夢を思い付きで語ったりしてましたが、とにかく新しいハンバーグを作りたいということは一貫していたので、みんな一致団結してそれに取り組んでいました。

そしてついに、ハンバーグを焼く日が訪れました。
焼き始めたらもちろん焼きあがるまでやり直しはできません。三ツ星シェフは『王様』の店主に焼き始めていいかと問いました。
『王様』の店主もちろんそれを了承しました。

ハンバーグはゆっくりじっくり焼かれていきました。王様はその間も訳の分からない夢を語り続けていましたが、ハンバーグは焼かれ始めました。だんだん香るハンバーグの香りに、昔からのファンはもちろん、ハンバーグを知らなかった人たちも集まってきました。そんなときです。
『王様』の店主は唐突に「このハンバーグにチーズを入れたいんだよ」と言い始めました。
若い三ツ星シェフは(今からチーズを入れる?もう焼き始めてんだけど…。焼く前に確認したじゃん…。)と思いましたが、それでも、尊敬する『王様』の店主の意見を聞き入れ、若い三ツ星シェフは今からできることを提案しました。
「チーズを載せたらいいんじゃないですか?今から中に入れるのは無理なんです。」

途端に『王様』の店主はブチギレました。「なんだ!何でも反対すんのか!チーズの入ってないハンバーグなんて俺のハンバーグじゃないんだよ!お前にやらせてたけどもうやらなくていいよ!俺がチーズ入れろって言ったら入れるんだよ!」
唐突にブチギレられて、若い三ツ星シェフは困惑しました。それまでチーズを入れるかどうかなんて『王様』の店主は言ってなかったし、これまでさんざんみんなで話し合ってハンバーグをこねてここまできたのです。
今焼いているハンバーグも、何回もこね直したものでした。
でも『王様』の店主の勢いは止まりませんでした。
「俺がチーズ入れるって言ったらチーズの入ってるやつが王様印のハンバーグなんだよ!チーズ入れるか入れないかはお前が決める事じゃないんだよ!お前、生意気だな!今この瞬間からここにはおめえの席ねーから!」
と、それまで寝る間も惜しんで手弁当で新ハンバーグ作りに参加していた三ツ星シェフをあっさり切り捨てました。
ついこの間まで、わざわざみんなの前に三ツ星シェフを引っ張り出してきて紹介していたのに…。
そしてスピーカーを取り出し、通りに向かって「えー皆様、三ツ星シェフの作ってたハンバーグは、王様印のハンバーグではありません!ハンバーグでもありません!誤解なきようお願いします!」と叫びました。

それでも腹の虫がおさまらなかったのか、外に追い出した三ツ星シェフに「今後お前がハンバーグ作るのは勝手だけどよ、ハンバーグって名乗るなよ。ビッグ肉団子焼きとか、ひき肉つぶし焼きとか名乗れよ。同じようなものができるだろ?」と言い放ち、塩を撒いてぺっと唾を吐き、乱暴にドアを閉めました。
三ツ星シェフは話し合おうと思い、ドアを叩きましたが、そのドアが開かれることはありませんでした。

その後、厨房は異様な空気になっていました。
『王様』の店主のご機嫌を損ねたらどうなるか、みんな目撃してしまったからです。こんな店主にはついていけないと、一人去り、二人去りしていきました。
みんな自分の生活があるので当然です。限りある時間をこんなわがままな人とは共に過ごせませんから。
あとに残ったのは、自分では何もできない、昔はよかった、若い奴らはダメだ、という老人たちと、老人を妄信する若干の人々、事情を知らない「うまいものに妥協なんて許されないよねー」という知ったような口をきく人たちだけなのでした。

この話は新・王様印のハンバーグの完成を心待ちにしていたファンにも瞬く間に伝えられました。
みんな新・王様印のハンバーグにどんなソースをかけようとか、どんなトッピングをしようとか楽しみにしていたのでがっかりしてしまいました。フォークとナイフを新調していた者もいたほどなのに。

それでも三ツ星シェフの方の新・ハンバーグを食べたいと思う者、変わらず王様印のハンバーグを食べ続ける者、ハンバーグなんて見るのも嫌になった者、そもそもハンバーグを食べてないのでこの騒動を面白がっている者、さまざまな人がいましたが、一つだけ確実に言えるのは、みんなが食べたがっていた新・王様印のハンバーグはもう誰も食べられないという事です。
そして『王様』の店主はこれまで通り完成しないハンバーグの味を語り、完成したとしてもみんなが食べたかったものではなくなるでしょう。
まぁ、誰もが認める三ツ星シェフの無償の協力を無碍にした『王様』の店主を手伝おうなんて、そんな人はもう出てこないでしょうが…。
楽しんでいた国外の人たちも、一部は落胆していましたが、そもそも彼らは好き勝手に調理していたので、これからも好き勝手に調理して楽しむんじゃないかと思います。

でも、今の世の中はおいしいものがたくさんあります。
王様印のハンバーグは、そのうち忘れ去られ、幻のドリンク「どりこの」のようにその味を知るものもいなくなるでしょう。
そしてこの話は一部で語り継がれ、多くの人からは忘れ去られることになるのでした。

今日も『王様』の店主は、路上に向かって「新しい王様印のハンバーグはねぇ、切ったら虹色の肉汁が出てきて…」と、大いに夢を語っているのですが、手伝おうとする者はもちろんおらず、通り過ぎる人々も、「またあの人何かしゃべってるな…」という目で見るだけで、足を止めて聞く人はもういないのでした。

-おわり-

投稿者 H.OHNO

OB PROJECTの担当は主に、プログラム/グラフィック/企画。 個人インディーレーベルAGO SOFTもあります。 山形に住んでる田舎の人。

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